2012年12月6日木曜日

ドン・サルヴァドール・トリオ『Tristeza』〜もしもこの世にタイム・マシーンが存在するなら〜

先日リイシューされたドン・サルヴァドール・トリオの『Tristeza』。これは執筆した日本盤ライナーノーツの冒頭です。もちろんBar Musicにも入荷済です。ぜひ続きも読んでみてください。



 もしもこの世にタイム・マシーンが存在するなら、何としても体感してみたい時代の場所が三カ所ある。

 一つ目は、ジャズとソウルがヒップホップやハウスといった新たなビートとクラブ・ミュージックという概念を得て混沌と洗練を重ねた80年代末~90年代初頭のロンドン。
 
 二つ目は、チャールズ・ステップニーという偉大なプロデューサー/コンポーザーが、ミニー・リパートンやテリー・キャリアーという才能の原石と出会い、優れたスタジオ・ミュージシャンらと奇跡的な音楽を次々と生み出していた70年代初頭のシカゴ(そこにはラムゼイ・ルイス、後にアース・ウインド&ファイヤーを率いるモーリス・ホワイト、アーマッド・ジャマル、マリーナ・ショウらもいる)。

 そして三つ目は60年代のブラジル、アドルド・ロヴォ作曲の「Tristeza」がカーニバルでセンセーショナルなヒットをした頃のリオ・デ・ジャネイロ。迷わずコパカバーナの「ボトルズ・バー」「リトル・クラブ」「バカラ」「マグリック」といった小さなナイトクラブが連なるドゥヴィヴィエール通り、通称「ベッコ・ダス・ガハーファス(酒瓶の袋小路)」へと向かう。そこでは毎夜多くのミュージシャンたちによる熱いジャム・セッションが行われていた。テノーリオ・ジュニオール、ルイス・エサ、セルジオ・メンデス、ミルトン・バナナ、モアシール・サントス、アイアート・モレイラ、ヴィトール・アシス・ブラジル、ウィルソン・ダス・ネヴィス、デオダート、ドン・ウン・ロマン、バーデン・パウエル、ベベート、ホジーニャ・ヂ・ヴァレンサ、ルイス・カルロス・ヴィーニャス等、後のブラジル音楽を語る上でも欠かせない数多の若きミュージシャンたちが、キラ星の如く存在していた。本アルバムの主役ドン・サルヴァドールもまた、その中で大きな輝きを放った者のひとりだ。

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