2012年10月29日月曜日

R.I.P. Terry Callier.

大好きなテリー・キャリアーが、天国へ旅立ったそうです。思わず涙が溢れました。
以下はディスク・ガイド『ムジカノッサ・ジャズ・ラウンジ』(2008年)のために執筆した原稿です。彼の作品の全てではありませんが、ここに転載しておきます。
ご冥福を、心よりお祈り申し上げます。
2012年 10月29日 中村智昭




-Ordinary Callier-
世紀の名曲「Ordinary Joe」を生んだテリー・キャリアー。
ジャズはソウルであり、ソウルはブルースであり、ブルースなきジャズにソウルはない。そう感じるようになったのは、彼という存在があったから。そして告白してしまうなら、僕はジョン・コルトレーンという音楽の多くを、彼から学んだのです。彼が来日公演でコルトレーンのTシャツを着ているのを目にしたときには、心が震えました。
詳しくは以前に執筆したカデット期のアルバム『What Coler Is Love?』のライナーノーツを読んでいただきたいのですが、音楽家としてのキャリアーがこれまで歩んできた道は、相当に険しいものだと思います。だからこそ、その歌声と言葉には、真実と誠実が宿るのです。僕はきっと、生涯彼を支持します。


Terry Callier / Occasional Rain(Cadet / 1972)
高校生のころ、この「Ordinary Joe」を初めて耳にした。やはり同時期に触れたジョン・ルシアンの「Kuenda~Would You Believe In Me」も大きなショックだったが、時と年齢を重ね、繰り返し聴けば聴くほどこの曲により惹かれるのは何故だろう。アルバム・タイトルの「Occasional Rain」、そして後にベス・オートンとのデュオで再演される「Lean On Me」も、本当に心に沁みる。

Terry Callier / What Coler Is Love?(Cadet / 1973)
音楽の精霊が宿る、奇跡のアルバム。ジョン・コルトレーンの意志はテリー・キャリアーなるブルースマンにも託され、チャールズ・ステップニーの手でそれは世に問われた。2007年のアーロン・ジェロームによるカヴァーも素晴らしかった「Dancing Girl」、そして地を這うようなギター・アルペジオとベースラインのコンビネイションが最高にクールな「You Goin' Miss Your Candyman」と、じわりと熱を帯びる名曲達が静かに連なる。

Terry Callier / First Light:Chicago1969-71(Premonion Records)
プレステッジに『The New Folk of Terry Callier』を吹き込んだのは64年、そしてカデットでの『Occasional Rain』は72年。その間もキャリアーは、地元シカゴで地道な活動を続けていた。これは69年から70年にかけてのラフなスタジオ・テイクと71年のライヴを収録した発掘音源集で、貴重な「Ordinary Joe」のファースト・レコーディングも聴ける。装飾のない、シンプルなキャリアーの姿もまた堪らない。

Terry Callier /Turn You To Love (Warner / 1978)
チャールズ・ステップニー亡き後の70年代後半にエレクトラで制作されたアルバムで、ホーン・セクションも加えられた「Ordinary Joe」は、より華やかな印象に。「A Mother's Love」もキャリアーらしい慈愛に満ちた佳曲。60年代から一貫して自由と愛、そして平和を訴えかけてきた彼が、世に吹き荒れたディスコ旋風に立ち向かった記録。翌年『Fire On Ice』を残し、キャリアーは音楽から一度距離を置く。

Terry Callier / Timepeace(Talkin Loud / 1998)
場所は90年代のロンドン。レア・グルーヴ~アシッド・ジャズ・シーンからの熱烈な歓迎を受け、キャリアーは劇的なカムバックを果たす。アコースティック・ギター一本で歌う「Love Theme from Spartacus」やブルージー・ワルツ「No More Blues」には、神々しささえ漂う。僕にとってはヤング・ディサイプルズ『Road To Freedom』と並ぶ、トーキング・ラウドの最重要盤の一つ。

Terry Callir / Love Theme from Spartacus(Talkin Loud / 1998)
慈悲深いヴォーカルと揺れるエレクトリック・ピアノ、そしてタイトにグルーヴするトラック。「Love Theme from Spartacus」は、トーキング・ラウドを率いたジャイルス・ピーターソンの発案によって、テリー・キャリアーが歌詞を付けることで新たな曲として蘇り、4ヒーローという稀代のクリエイターの手でさらに見事に調理された。90年代におけるシーンの成熟を象徴する、歴史的な名演。

Terry Callier / Alive!(Mr.Bongo / 2001)
ロンドンの「ジャズ・カフェ」でのライヴ・アルバムで、聴衆と一体となった「Ordinary Joe」は残念ながらアナログ盤には未収録。僕の持つCDのジャケットには初来日公演の際の直筆サインが記され、そこには“All The Best To You”というメッセージも添えられた。訳するとそれは、“あなたの全てがうまく行きますように”という意味になる。以来、毎日をこの言葉と共に。

Nujabes / Modal Soul(Hyde Out Productions / 2005)
テリー・キャリアーは、新世代のクリエイターからのラヴ・コールにも誠実に応え、自ら「Ordinary Joe」を歌う。Nujabesは「Feather」で「Love Them from "The Robe"」というユセフ・ラティーフの録音から再びフレイズを見事に抜き出すが、この時点でヒップホップという立ち位置から本格的により開かれた世界へ飛び立つ。僕の中では成るべくして、CALMとの合流を果たした瞬間だった。



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